平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




「ひーめーっ!!」



どこからともなく軽快で脳天気な声が、真夜中の大路に響く。



「こっちだよー!!」



「せーいーなー!!」



ぽふっ



「ひめーっ♪」



アタシの頬に自分のそれをつけて、擦り寄ってくるのは…



「一鬼!!」



都に住まう雑鬼の一匹、一鬼。



ここにいる雑鬼たちは、過去に皆アタシが助けてあげた者たちだ。



「ひめ、なんでずっと外に出なかったんだ?俺たちみんな寂しかったんだぞ?」


頭の上で偉そうにしているのは戉鬼。



「ごめんなさい。アタシ一月後に成人するの。その準備で女房たちが常にアタシのそばにいて、なかなか抜け出せなかったのよ。」



「ひめ大人になるのか?」


「せいなは、結婚するの?」


「やっと成人か。オマエは遅かったからな!!」



「結婚したら会えなくなっちゃうの?」



口々に勝手な事を言う雑鬼たちだけど、気を許せる数少ない子たち。



「まだ結婚はしないわ。だから安心して。それにアタシは結婚しても、皆に会いに来るわよ。」



ニッコリと微笑むアタシに安心する雑鬼。



「ではアタシ、まだしなければならない事があるから…悪戯はほどほどに!!」