時刻は亥の刻。
邸を出るとすぐに、一条の戻り橋がある。そこには、昔父がたくさんの式神を召喚していたと聞いたが、今は都の雑鬼たちが昼寝をしているのを見るくらいだ。
式神は今では、十二天将だけ。
十二の神の名前は、天空、青龍、白虎、玄武、朱雀、貴人、騰蛇、太陰、六合、太裳、天后、勾陣。
皆、温厚な神たちばかりでよく話し相手になってくれていたが、最近はふつりと姿を見せなくなった。
いったい、どうしたのだろう?
考えても解らないので、帰ったら父に聞くことにしよう。
アタシが帰る頃には丑の刻を回るでしょうが、あっちは現役の大陰陽師。今頃こっそり抜け出したアタシの事など、お見通しのはず。
寝ていたら起こせばいいのだ。あちらも、予想の範疇だろう。
考え事をしていたらいつの間にか大きな通りに出ていた。
…ここは二条大路だろうか?
まわりに目印になるような物はないだろうか、と探すアタシの目は夜中だと言うのに、ずぅっと先まで昼間のように見通せる。
黒視眼
暗闇でも、昼間のように辺りを見通せる、とても珍しく便利な眼。
これは父である安倍晴明が、狐の子であるために起こった現象だろう。


