「そういえば、貴女の弟君が春に元服されるのでしたね」



「はい、正月から陰陽寮にお世話になると伺っております」



微睡む意識の中で、父上の文に書いてあった事を答える。



貴雄様はアタシの頭を撫でながら、眠い声を出すアタシをくすりと笑う。



「それは晴明も、さぞ喜んでいるだろうな。子供二人が一度に成人し、それも自分の様に陰陽の術を学ぼうと言うのだから」



貴雄様の言う通りだと思う。



兄上は陰陽の術を扱うものの、陰陽師になりたいとは言わなかったのだから。



きっと桂と榊が陰陽師になると言った時は目を細くして喜んだに違いない。



そんな事を考えていると、自然と瞼が下がってきた。



どうしてお慕いしている方の腕のなかは、こうも安らげるのだろうか。気を張らずに居られる。



そう思いながら、アタシは眠りの中へと落ちていった───…








夢の中でアタシは、貴雄様と寄り添い何処か広い所で温かい日差しを浴びていた。



貴雄様に触れていると、ただそれだけで幸せで、温かかった。



夢だとは解っていた。



だが何時までもそうしていたいと思うほど、幸せな夢。



アタシは隣にいるはずの貴雄様に笑いかける。



きっと貴雄様もそうしてくれる。



そう思い、隣を見上げる。



が、貴雄様の姿は何処にも見当たらなかった。



驚きその場に立ち上がると、それまでの景色もが一変した。



あたり一面が真っ暗になり、黒視眼であるアタシでさえ、何も見ることが出来ない。



そして、浅く早い呼吸がすぐ側で聞こえる。