平安異聞録-お姫様も楽じゃない-




頭の中に、四の君の乳母殿の言葉が蘇る。







───姫様は、本当に…本当にあの輩とは何も無かったのです。



床から起き上がり、悲嘆に暮れる乳母殿からの告白に、兄上共々目を丸くした。



「…あの晩、私はたまたま姫様のお側を離れていたのですが、用を済ませ一刻もさないうちに、姫様の元に戻りました。」



乳母殿はそこで一旦切り、こめかみを押さえた。



やはり、まだ四の君の妖気が完全に抜けきっていないのだろう。



「乳母殿、横になられた方が…」



そう言う私に、乳母殿は「大丈夫です」と首を横に振り、話を続ける。



「…私が戻った時、ちょうどあの輩が姫様に言いよっておられる最中でした。」



そこまで言い、乳母殿は悔しそうに顔を歪め、涙を流した。



「…わ、私は直ぐ様、姫様から引き剥がしました。衣は何処もはだけておらず…姫様は潔白なのでございます!!」



それなのに殿の仕打ちはあまりだと、乳母殿はとうとう泣き崩れてしまった。



姫様の沈み様も、もっともでございましょうっ…その様な姫様を見るのが本当に辛く…



この様な目に合わせた、あの不届き者が憎らしく、自分も許せない…。



ですから、どうか…



『どうか、姫様をお救い下さい…っ』






病で床についていた乳母殿と、憎しみに溢れた四の君が余りにも痛々しい。



「…四の君様、全て忘れて下さいませ。」



先ほどとは打って変わり静かなアタシの声に、四の君はギロリとアタシを捕える。



確かにこんな言葉で、簡単に忘れられる事ではないのだが…



憎しみのこもった四の君の視線を、アタシは気にせず続ける。