夜宮愛依菜(よみやあいな)。

行きます。

「おはよー!!」


「邪魔…チビ」


チビ…。


だけどね。


「それでもいいから挨拶しろー!!」


私の横を全く無視して通りすぎていく。


この人は私の好きな人。


朝日輝真(あさひ てるま)。


なんといってもこの毒舌が特徴!


…のはずなのに…。


「テルくんおはよー」


「おう」


なんで…。


どうして…。


「なんで私だけなのー!!!」


そう、彼の毒舌は私に対してだけなのだ。


どこまで嫌われてるの…私。


数ヶ月前、入学してすぐに輝真を見つけた。

一目惚れ。


でも輝真の周りにはたくさんの女の子がいた。


そこで、諦められる性格じゃない私はすぐに行動に出た。



告白。


しましたよ。


玉砕しました。


「俺お前みたいなチビに興味ないから」


ショックを受けて、同時に高熱をだし1週間学校を欠席しました。



でも諦められない私はいろいろ考えた。


学校に復帰してからは猛アタック。


でも私のことなんて覚えてなかった。


でも毎日挨拶することにした。


最初は完璧無視だったけど最近は一言二言毒舌に言葉を吐き捨てていくようになった。


これでも私にとっては喜ばしいことで。


輝真を取り巻いてる先輩方からはなんでか可愛がられていて。


私のことなんて敵視する価値もないと思っているのだろう…。


でも負けないもんね!


そのうち私のこといじめたくなるくらい輝真に私のこと知ってもらうんだから!


私と輝真は同じクラスだし!


隣の席だし!


「おい、飲み物買ってこい」


パシリにされてますけど。


話すチャンスがあるならなんだってやるさ!


「いちごミルクだよね!」


「お前のも」


あーやばい!

嬉しい!!


「ありがとう!行ってくるね」


教室を飛び出して自販機に走る。


輝真は私のことすごく使うけどただで使ったことなんて一回もない。


必ず私にも得があるようにしてくれる。


私は別にそれを望んでるわけではないけど、輝真のそうしてくれる気持ちがたまらなく嬉しいから受け取ってる。


「愛依菜ちゃん!」


えーとこの人たちはどちら様でしょう。


ジュースをかって教室に戻る途中、先輩と思われる男3人組が私の前に立つ。


邪魔だな…。


輝真が待ってるのに。


「急いでるのですが」


身長が低いせいでなんでも見上げなければならない。


輝真は身長が180cm以上あるため私は時々首が痛くなる。


それも嫌いではない。


だけど、それは輝真だから。


ほかの人のために見上げて首を痛めるなんて最悪でしかない。


「愛依菜ちゃんさ輝真の事好きなの?」



なんで、そんな事をこの人たちに聞かれるのか…。


答えなくてはいけないのか…。


まさか…


「輝真の事狙ってるんですか?!」


「違うから!!」


良かった…。


輝真は男でも好きにさせちゃうくらいの人だから。


「輝真なんかやめて俺と付き合おうよ」


「お断りします。ありがとうございました」


こうして毎回いろんな人にからかわれる。


私が輝真を好きな事は多分いろんな人が知ってる。


それを知ってる人たちが冷やかして、からかってこうゆうことしてくる。


私だって告白されて嬉しくないわけない。


でも嘘だってわかってるから。


賭けの対象にされてるだけだって。


元々男の子が嫌いだった私が輝真に恋した事が珍しいのだろう。


私が男の子嫌いっていう話は中学の頃から意外と有名だった。


中学のときは告白される事さえ苦痛だった。


それが今では輝真にゾッコンと来たらそれは少しは話題にもなるだろう。


でも私が空手をやっていることは全く広まらなかったんだよね。


「そんなこと言わないでさ、あっちでもっと話そーよ!」


そう言って先輩は私の手を掴んだ。


「いっや…」


あっ、ジュースが…。


掴まれて手の力が抜けてしまいジュースが床に落ちた。


「なにしてんすか、先輩」


「輝真…」


最悪だ。


ジュース落としたところ見られた…。


「輝真…別になんもしてねーよ」


先輩は急によそよそしくなった。


輝真の事苦手なのかな?


「なにやってんだ、おせーよ」


「…ごめん」


でもそれどころじゃない。


ジュースが…。


グチャって…。


先輩達は去っていった。


私はしゃがむ。


「ごめん、ジュース…」


「いいから立てよ」


なんで私はおつかいもちゃんと出来ないのかな…。


「ほら、立てよ。買いに行くぞ」


「うん…」


落ちたジュースは紙パック製だったため
落ちた衝撃で中身が少し出てきて飲めた
ものじゃない。


私はそれを持ってティシュで床を拭きゴミ箱に捨てた。


輝真はそれを見て自販機の方に歩いていった。


そして戻ってきて


「行くぞ」


そう言って教室の方に向かう。


私はそれを見て輝真後ろを付いていく。


お金、無駄にしちゃった…。


「ごめんね、お金」


「ああ」


こういう時は優しい。


私が落ち込んでるのに気づいてるから。


好き…。


凄く好き。


泣きそうだよ。


だめだよ。


輝真の前で泣くなんて。


「ほら」


輝真がちょこっと振り返っていちごミルクを私に渡す。


輝真はもう既に飲んでいた。


「ありがとう」


泣きそうだったのが笑顔に変わる。


輝真は凄い。


私の表情をコロコロ変える。


「授業、始まる」

「うん!行こっ」


私は輝真を軽く引っ張って教室まで走った。