「やだやだやだ……! 来ないで!」
泣き喚きながら、走る女性。
服に合うように可愛らしくまとめてあった、茶色に染められた短めな髪が汗でベトベトになって、本来の姿をを失っていた。
しかし、そんな必死に走っている女性の後ろには、何もいないように思える。
僅かな月明かりでは、1m離れた場所もよく見えない。
そして、女性を追い掛ける足音も、呼び止める声も聞こえない。

ーー何も捉える事が出来ないのだ。