学生の特権の長い夏休みも残すところあと1週間となった。
もう、9月も半ば、これといってなにかをしようと思っていた訳ではないが、同じような毎日を過ごしてしまったことに、少しだけ後悔してしまう。
家の外で喧しいくらいに鳴く蝉の声すら、過ぎていく時間を嘆いているように聞こえてしまう。
「おはよう、駿平君」
例によって、ボクが朝飯の準備をしていると、見計らったように、ひとみさんが姿を見せる。
寝ぐせのついた頭を手でかきながら、大あくびをしている。
なんやかんやと、彼女との同居が始まり、半年近くとなる。
始めは、ワガママな彼女のペースに自分のリズムを乱され苦労はした。
だが、いつのまにか、そんな生活は当たり前の日常と化している。
不思議なものだ。
「ねぇ、駿平君、どっか旅行でも行かない?」
スクランブルエッグを作っているボクに、ひとみさんは声をかけた。
「旅行ですか?」
「そう、近場でもいいけどさ、たまには遊びに出かけてみない?」
彼女の提案は悪いものでもないと思った。
少しくらい、夏休みの思い出も作っておきたいし。
「いいですねぇ。どこか、あてあります?」
ひとみさんはしばらく考えてから口を開いた。
「伊豆半島あたりドライブとかどう?」
伊豆かぁ、悪くないな、魚とかも美味しそうだし。
「いいですねぇ。でも、車無いですよ、うち。レンタカー借りますか?」
「当然。よし、そうと決まればさっさと支度しなきゃ」
嬉しそうな顔でひとみさんはボクに微笑みかけた。