まぁ、そんなわけで、完全にひとみさんのペースに巻き込まれ、気が付くといつの間にかボクは彼女と腕を組んだまま街中にいた。

「お腹空いたわねぇ。なんか食べましょう」

ひとみさんはそう言ってボクの腕を引っ張った。
そんなくだらないやり取りをしていると、背後から突然、女性の悲鳴が聞こえた。
ボクらは振り返った。
そこで目に飛び込んだのは、若い男が老女のバッグを引っ張り奪おうとしている姿だった。

「離して!ひったくりよ!」

老女は必死に抵抗していたが突き飛ばされ、バッグを手から離してしまった。
バッグを奪った男は、こちらに向かって猛ダッシュで走ってきた。
ボクはその光景を呆気に取られただ見ていた。
だが、次の瞬間、ボクの視界に隣にいたはずの女性の姿が飛び込んできた。

ひとみさん?

彼女は一直線に男に向かって走っている。
そして、その勢いに乗ってジャンプした。
空中で彼女は右足を高く振り上げた。
ちょうど彼女の真正面に位置していたひったくりの男は、その姿に驚いたように足を止めていた。
しなる鞭のように美しく振り上げられた彼女の右足は、次の瞬間振り下ろされた。
勢いの乗った足はまるで放たれた矢のようだった。
ひとみさんの足は見事に男の頭頂部を捉えていた。
鈍い音とともに、男は地面に叩きつけられた。

「駿平君、なにやってるの!早くコイツを取り押さえて!」

彼女の怒鳴り声に、ふと我に返った。
ボクは慌てて走り出し、フラフラ起き上がろうとしている男に飛びかかった。