ウソをつく必要がなくなると、遠慮なくかすみの隣に座る。 俺の特等席だったんだよな。 初めて出逢った日も――。 かすみの隣は俺だけだと思ってて。 当たり前、って言葉にすがっていた。 だけどそんなん失わないと、気づけないんだよな。 俺は手慣らしにピアノを弾くと、かすみの笑う声が聞こえた。 「おい...笑ったな? 俺初心者...」 言いかけて、かすみの笑顔を見てしまった。 あの日と変わらない――、温かい笑顔を―。 失いたくなかった、何よりも。 俺は泣くのを堪えて、そっと抱きしめていた。