それから仕事をしたが、発作は起こらなかった。

数日後の仕事の楽屋でテレビを見ていると、音楽番組がやっていた。

あっ!私の好きなバンド出てる〜♪

「Lilyやっぱいいなぁ〜♪」

Lilyは最近人気の五人組バンドグループだ。

んっ?!この人…



その時、またこの前楽屋にきた彼が遊びに来た。

「あっ!そういえば、LilyのShuさんだったんですね!全っ然気付かなかったなぁ〜。言ってくれればよかったのに!」

「それじゃあ面白くないだろっ?」

彼はフッと笑ってそう言った。

「あっ、紅茶でいいですか?」

「あぁ、ありがとう」

私は大好きなフルーツティーとおやつを二人分机に出した。

「おっ!ガトーショコラ!俺これ大好きっ!覚えて…」

「そうなんですか!私、よくわからないんですけど、記憶を失ってすぐに、これがすごく食べたくなったんです。別にすごくすきな訳でもないのに、何故か。もしかしたら、記憶を取り戻す手がかりになるんじゃないかと思って、ずっと食べてるんです。」

そういえば、Shuさん、何か言おうとしてたの遮って話しちゃった。

「あっ、ごめんなさい!何でしたか?」

「あっ、いや、なんでもない。」

「そういえば…結婚。してるんですか?」

前に来たときから気になっていた。左薬指にキラリと光るシルバーのリング。
とても綺麗。

「あ、あぁ。まぁ…な。」

「はやいですね!よっぽど素敵なひとなんだろうなぁ〜。」

あれ?黙り込んじゃった。照れてるのかな?フフッ。いいこと考えた。

クールな雰囲気の彼を、奥さんのことで質問攻めすれば面白いかもっ!
イタズラ心が働いてしまった。

「奥さんとはどこで知り合ったんですか?」

「祖父母の紹介で、な。」

「名前はなんて言うんですか?」

「果歩(かほ)。」

「同い年ですか?」

「あぁ。」

案の定、照れ隠しか、ずっと下を向いていた。よし、これで最後にしよう。

「素敵な人ですか?」

すると彼は急に天井を見上げ、初めてみる優しくて、でもどこか儚げな表情で言った。

「あぁ…。」

ズキッ––––––

その瞬間、何故か心が痛んだ。

発作とは違う。チクチクと痛む。この痛みはなんだろう。