そっと礼治さんを押した。すると礼治さんはギュッと抱きしめてくれて、髪に頬ずりしてくれた。


「……礼治さん……ありがとうごさいました」


切なくて苦しくて……それでも大好きな礼治さんの顔が見たくて顔をあげた。

礼治さんは胸のなかからあたしが居なくなって寒いのか、寂しそうに顔をしかめた。


「あまり擦らないで冷やすといい」


頬に伸ばされた手は、たどり着く前に力無く下げられた。


「帰ろっか」

「はい」


投げ出してあったバックを拾い上げると、ゆっくり歩きだす。その後をあたしもゆっくり着いていく。



あと2日。

あたしはこの人と一緒に居られる。ずっとずっと好きで、好きでたまらなかったこの人と。

10年分の思いで一緒にいよう。

そして……

この仕事が終わったら、忘れるんだ。それで新しく誰かを好きになるんだ。


10年好きでいたなら、忘れるのに10年かかると聞いたこともある。でも、いいの。

忘れられなくても。

礼治さんが結婚していても、ずっと好きでも。ただあたしが好きでいるだけなら……