おじいちゃんの指が赤紫なのは、萎んでしまった朝顔を摘み取ったからで、なにも悪くなんてなかった。わかっていても大事にしている写真集を汚されたことで、我慢できないイライラをおじいちゃんにぶつけた。


「汚すんだから、もうおじいちゃんになんか何にも見せてあげない。散歩だって一緒にいかないし、もう来てあげない」

 眉毛を下げて悲しそうな顔をしたおじいちゃんが、ポケットから出したハンカチで汚れをこすってくれたけれど、落ちることはなかった。


「ごめんな。玲奈があんまり楽しそうだったから、つい見たくなったけど、汚しちまうなんて悪いじいちゃんだな」

 いつもなら許せることなのに、この日のあたしはどうしても我慢できなくてわんわん泣きながらおじいちゃんを責めた。

 突っ伏して泣くあたしの頭を撫でてくれながら、あたしが泣き止むまでいてくれたおじいちゃんが、思い出したように言った。


「玲奈の宝物の代わりにはならないかもしれないけど、じいちゃんの宝物をやるから許してくれな」


 立ち上がったおじいちゃんは、ちよっと待っとけといいながら何処かへ行って、すぐに何か手にして帰って来た。


「形は古いかもしれないけど、まだ使えるから玲奈も写真を撮ってみたらいいよ」

 開かれた両手にはコンパクトカメラが乗っていて、こちらを見上げていた。その時まであたしには、自分で写真を撮るということが頭になくて、びっくりしておじいちゃんを見た。


「でも、高くないの? こんなに高い物を貰ったら、おかーさんに怒られるよ…」