早く行きましょうという両親に、新しいお洋服もおいしいイーツもいらないからと初めて買ってもらったのが山崎礼治さんの写真集『Echo』だ。

あのとき世界がきらきらしたことを忘れられない。紙袋に入った写真集を宝物のように大事に持ち帰って、ドキドキしながらページをめくった。

ページをめくるたびに、山崎礼治という人物の目を通して見た世界が綺麗に輝いて見えて、自分も写真の中に入り込んでしまうほどのめり込んだ。


何度も何度も開いたので、写真集の背表紙をテーブルにつけて置くだけで、お気に入りのページが開いてしまうほどだ。



ずっと会いたくて、やっと会えるというのに、なにしてるんだろう。

そう思ったら、いても立ってもいられなくなる。一番近いタクシーまで走るように向かう。


一分でも早く会いたい。



「早く行きましょう。年上の方を待たせたらいけません」

「玲奈ちゃんが大丈夫なら、すぐ行きましょう」


追い付いてきた青木さんは、ポーチからパウダーを出してメイクを直してくれる。

「大事な場面だもの。綺麗にしないとね」

取り乱して泣いてしまった涙を、なかったことにしてくれる。