「このハンカチを使って。それから礼治には、幸せになってねって伝えてくれるかしら」


 立ち上がった彼女から、ふわりと香水が香る。甘くてきりっとした香りは彼女にとても似合っていた。


「………伝えます、きっと。お話ありがとうございました」


 見送るために立ち上がって、深くお辞儀をした。どんなに言葉につくしたとしても、きっと言い表せない。あたしはこの人に礼治さんを託されたんだ。

 渡された離婚届は、折り目の縁が擦れていて、彼女が何度も迷って紙を開いたことを伺わせた。

 そんな大事な物を渡してくれたんだ。

 このまま礼治さんが死んでしまったとしても、普通なら離婚なんてしないで礼治さんの遺産を受け取るほうがずっと楽だ。

 たとえ詰られたとしても、その権利があったのに、彼女はそれを放棄した。



 離婚することによって、彼女もまた新しい人生を生きていくのだろう。彼女もまた幸せになって欲しい。

 辛い思いを忘れて、一日も早く。