式神と共に下界に降り、夜の街を見廻る。
徳川家康、と言う男がこの国を天下統一して以来、久し振りの下界だった。
夜でも明るく、騒がしいのは下界の良い所だと私は思う。

森と言う所に行き、開けた場所に着く。
そこには1本の大きな桜の木が立っていた。
月の光に照らされた桜はとても綺麗で、戦が行われる下界には不釣り合いな物だと思った。
幻想的で、この桜が好きなのだ。

「のう、式神」
「何ですか?不知火様」
「我は月光に照らされるこの桜が下界で最も好きなのだ…人が生み出したのか、自然が生み出したのかは知らぬが…この景色が好きなのだ」
「…確かに、この世の物とは思えない位…綺麗ですね…」

そう言って、うっとりするのは良かった。
だが、木の幹に触れてしまい、蝶の姿になってしまった。

私の式神は、元々は蝶だった。
だが、不思議な事に神の世で仕える式神は、何かに恋をして、恋した物に触れると元の姿に戻り、果てるまで元の姿で生きなければならない。

「…!式神っ!!」
『…不知火様、そんな哀しそうな顔をなさらないで下さい…影火が出てしまいますよ…?』
「…どうでも良い、式神…戻って来てくれんかっ?今なら間に合う!!」
『いえ…私はここに残ります…』