火雨side

不知火(しらぬい)様ー!」

どたどたと騒がしく走る式神。
私の元までやってくると、呼吸を落ち着かせてから話し始める。

「不知火様!玉依姫様が到着なさりました!!」
「そうかい、なら大蛇(おろち)も呼んでおやり」
「えー…大蛇様もですか…?」
「はははっお主は本当に大蛇の事が嫌いだの」
「だってぇ…」

私の式神はそう言いながら、頬を膨らませ、不服そうだった。
不知火、というのは私の名前で神の世での名前である。
大蛇は時雨の名前である。
私は火の神…というよりも精霊に近い火の神であるが、時雨は雨の精霊として居た。

八岐大蛇とは、一応知り合いだった為、殺られた時は哀しかった。
だが、人を喰らうのはこの世の掟にとっては違反行為だった為、仕方がなかったと思う。
しかし、八岐大蛇がイザナギ様の子…元神である、スサノオ様に殺されたのは不幸中の幸いだと思われる。

「そろそろ行かないと玉依姫が怒ってしまう…大蛇は呼ばずに向かおうかの」
「そうしましょう!!」
「ふ…大蛇が可哀想だの」
「良いんですっ!」
「はははっ」

式神とそう笑い合える日々が続けば良いと思った。
共に下界に降りるまでは。