それだけは、避けてあげたい。
あの人を、芹沢さんを殺した事を後悔しないで居て欲しいから。
芹沢さんの事を忘れた頃に伝えてあげるのが1番だと思うから。
それまでは、私だけが芹沢さんの影を…全てを背負い続ける。

お昼になり、芹沢さんの葬儀が行われた。
芹沢さんの遺体がある棺の上には、浅葱色のダンダラ模様がある隊服が掛けられ、その上には彼が肌身離さず持っていた鉄扇が置かれている。
彼はもう居ない、という事実を物語っている。
耐えられなかった私は、部屋に戻って刀と槍の手入れをし始めた。
その後、土方さんが部屋に来て、芹沢さんの鉄扇を私に渡して戻っていった。
私の掌に載せられた鉄扇は、少しだけ重く感じられた。
芹沢さんの意思が鉄扇に込められている、そんな気がしたからかもしれない。

「芹沢さん…」

彼の名をぽつりと呟いても、私以外誰も居ないこの部屋では空しく響くだけだ。
そう思っていると、少しだけ開けている襖の間から風がふわりと吹き、私の髪をゆらゆらと揺らして遊ぶ。
まるで私を、励ましているように感じた。

まだ、少しだけ汗ばむ季節だった。