火雨side

昨夜、芹沢さんを殺した。
芹沢さんの体を…心臓を突き刺した、あの感触が忘れられない。

今までは、初めて神殺しをしても、人を何回殺しても何とも思わなかった。
人を殺した感触が、こんなにも手に残っている事が初めてで分からなくなった。
こんな事…人を殺す事をいつからしていたのか。
もう色々と分からなくなったのだ。

「…人間という生き物は、不思議だな…」

そう呟いた。
時雨と2人で使うこの部屋は、やけに広く感じる。
昼からは芹沢さんの葬儀が行われる。
私は朝餉から大広間に顔を出していない。
ただ単に食欲がなくて、朝から床に寝転がりながら、ぼんやりと天井を見上げているばかりだ。

「火雨~」
「…おかえり、朝餉は美味しかったか?」
「勿論!」
「そうか…」

襖を開けて入ってきた時雨を見上げて、苦笑した。
また、天井を見上げてぼんやりとする。
芹沢さんの本性の事については、まだ何も伝えていない。
まだ、伝える時ではないから。
時雨に芹沢さんの本性の事を背負わすのは、あまりにも辛い事だと思うから。