その中、芹沢さんは隣家の屋根の上から大声で指図していた。
火消しが駆け付けて来たが芹沢一派が白鉢巻に襷姿で抜き身を
振り回している為、火消しにも町の人にもどうにも出来なかった。
彼等は、町の人々が見ている前で大和屋の七棟もあった蔵をことごとく打ち壊し
火を放ち、商品の糸や布を蔵から引っ張り出して引き裂き、踏み躙っては、路上へ投げ捨てていた。
「……なんてこった…」
「……な、んだ…こりゃあ……」
そう呟く。
「こら、もうあかん……大和屋はんも、おしまいや……」
「壬生狼は鬼や……獣や」
人々の怨みの篭った目や声が俺等に向けられる。
「……こりゃあ、ひでぇな……」
後ろを向くと皆さんがいた。
「……」
私は前を向くと、屋根の上で鉄扇を振り回している芹沢さんを見る。
炎を映し出している、てらてら顔には悲しむ人々の涙も見えないらしい。
「さぁさぁ!燃えろ、燃えろ!!
大和屋はエゲレス(イギリス)に生糸を売って大金を儲けた……見ろっ!!!
その顔が全部燃えていく!攘夷だ!!
天使様の攘夷に逆らう者は、全てこの通りだ!!!」
屋根の上から、芹沢さんの笑い声が響く。


