(これはもう、決まりかな……)
そう思った瞬間、上がりかけた気持ちがいきなり地に落ちて、その落差に軽く立ち眩みがした。
大好きな八津くんの視線が疎ましいとはじめて思った。
詠子は息を吐き、いつもいじり過ぎな中指の爪に触れる。
――きっと、今より悪い状況にはならないはずだから、思い切って声をかけてみましょう。
先ほどの佐希子さんの声が耳に蘇り、我に返った。
木霊する声に意識を寄せて、詠子は息を整えた。
そうしてすこし頭に酸素が回ったら、今の状況が飲み込めて、すると今度は妙に可笑しくなってきた。
(ただの確認、だった……、いや、確認、だよね――)
変だと思った。
だがそれも仕方がない。それだけわたしの遠ざけ方が露骨だったのだろうから。確かめずにはいられない性分なのも、八津くんだったら頷ける。
詠子はマフラーを引き上げると、バツがわるい思いで前髪に触れながら、
「ごめんね。あのときわたし、自分でもどうかしてたんだ」
「具合でも悪かったのか?」
「そうじゃないんだ。あのね、怒らないで欲しいんだけど……その、いきなり八津くんが女の子と闇の中から出てくるのを見ちゃったから。それで、あの、急にこう頭がかーっとなっちゃったっていうか……。ごめんね、変にそっけない態度取っちゃって」
「え……、国本、それって」
鈍そうな八津くんの目にもさすがに何かを悟ったような光が宿る。

