おいしい時間 しあわせのカタチ


 詠子は仕方なく、一本先の信号から道路を渡ろうとつま先の向きを変えた――変えようとして、


「あれ、詠子じゃん」


 見つかった。


「……」

「なにしてんだよこんなとこで」


 同じクラスで、小中いっしょの、いわゆる幼馴染に声をかけられて、詠子は硬直しながらとっさに幼馴染のことを呪った。


「おうー。今帰りなの? 早くない?」

「たまにはこんな日もあるんだよ。おまえは?」

「ん? ちょっとね、おつかいさ」

「ふーん。なぁ、宿題終わった?」

「終わった」

「げー」

「解答の冊子もらえた?」

「古典と化学がダメだったから、明日までって釘刺された」

「はは、どんまーい」


 野球部の輪に入るか入らないか微妙なところで、しかし詠子はいつになく積極的に話をつづけた。とはいえその間、八津くんのほうへは一切目を向けなかった。

 うう、悔しい。ここですこし、ほとりに足を着けておけばまだしも入り口が開けそうなところを……くそ。


「てか詠子、なんでチャリじゃないのさ」