「そう。すこしずつ日は長くなってきたけど、まだ暗いから気をつけてね」
「はい、大丈夫です。これ、ごちそうさまです」
「わたしのほうこそありがとう。後でお店の人たちと一緒にいただきます」
門のところまで見送りに出る。とっぷりと暮れた夜空にはちらほらと星が浮かんでいるが月はない。
空から下界へ目線を転じれば、詠子ちゃんはまだそこにいた。
お腹が空いてるはずなのに出だしが悪いなと不思議に思っていると、
「あの、佐希子さん……」
おもむろに顔を上げた詠子ちゃんが控えめな声で佐希子を呼んだ。
なにか、切羽詰ったものを感じる眸を、しかし佐希子は表情を変えずに受け止める。
「はい?」
「ひとつ、相談を聞いてもらってもいいですか?」
「この場で済む話なら」
はっとしたように詠子ちゃんは目を見開く。
「あ……そ、そうですよね、今営業中なのに、わたし」
「て言ってもまぁ、今はちょっと手が空いてるから構わないけど。なんでしょう?」
詠子ちゃんは手元の新聞紙の包みを見るともなしに見つめながら、暫しの間、切り出すための言葉を探していたが、やがて意を決したように、
「実はわたし、好きな人の前でつい可愛げのない態度を取っちゃって……。ていうのは、その人が、女の人と並んで夜道を歩いてるところを見かけたせいなんですけど。今日、宿題の関係でどうしても登校しないといけなくて、午前中、その人に会ったんです。話そうとおもえば話せるチャンスだったのに、わたし、それもふいにしちゃって……。ああもうサイアク……、せっかく来年も同じクラスになれることがわかったのに、このままじゃわたし、わたし……」

