詠子ちゃんはお腹を押さえたまま硬直し、
「すいません……、つい」
「別に謝ることじゃないですよ。お腹が空くのは健康な証拠なのよ。ちょうど夕飯どきですものね。ご飯はまだ?」
「はい。ご飯までの時間に届けてきなさいって。だからわたしもう行きますね」
「ああ、詠子ちゃん」
佐希子はとっさに詠子ちゃんを呼び止めた。
「まぁまぁいいじゃない、ちょっとくらい。せっかく来たんだし。食いしん坊の詠子ちゃんに食べて欲しいものがあるのよ」
そう言ってやや強引に油っぽい台所に連れて行くと、止めていたコンロに再び火をかけて、頃合いになったところへ揚げる前のカツを投入する。
「見た目はともかく、やっぱり食パンが美味しいと思うのよ」
独り言を洩らしながら市販のパンを適当に引き抜いて耳ごとまな板の上にセットする。
よく油を切ったカツを特製のソースに一分の余りもないようくぐらせて、それを食パンの上に直接置く。
その上にさらにパンを重ね、包丁で、がつっ、ざくっ、というすばらしくいい音を立てて真っ二つに。それをさらに四等分にする。
「美味しかったら、次からお土産として売り出そうと思ってるのよ。味見してみて」
詠子ちゃんはごくりと喉を鳴らすと、さしたる躊躇もなく、佐希子の手作りメンチサンドを手に取った。
よほどお腹が空いていたか、あるいはメンチカツが食べたくて仕方なかったか。
いずれにしろ、この子の良さは素直で、遠慮すべきところと甘えてもいいところを区別する能力に長けているところだ。
すぐさま飛びついてうれしそう頬張られて、作った方として、こんなに幸せな光景もないものだ。

