「ねぇ、今もしかして台所のほうに来た?」
「え、あ、はい。チャイム鳴らしても返答がなかったので。でも電気はついてるしと思って。もしかして驚かせてしまいましたか?」
「えっ? ちがうわ、いいのいいの。それよりごめんなさいね、気づかなくて。水出してたからかしら、おほほ。ところで今日はどういったご用件かしら」
「はい。あの、これ。うちの両親からなんですけど」
「詠子ちゃんのご両親から? わたしに?」
渡された紙袋を覗いてみれば、広いマチぎりぎりいっぱいに長野銘菓の栗羊羹が入っていて、佐希子は度肝を抜かれた。
「やだ、こんな高級なもの頂けないわ。それにもらう理由もないもの」
押し返そうとすると、いいんですいいんです、と詠子ちゃんも譲らない。
「うち、親戚が向こうにいて、ときどき送ってくれるんです。この前、佐希子さんからもらったバイト代が思ってたより多くて、両親もびっくりしてて、だからそのお礼なんです。っていってももらいもので悪いんですけど……、栗、きらいですか?」
「ううん、栗は大好きだけれど……、本当にいいのかしら」
「ぜひ受け取ってください。しょっちゅうお土産ももらってたし、このくらいしないとって母も固いから」
「義理堅い、いいお母さんねぇ」
「いや、そんな――あ」
そのとき、詠子ちゃんのお腹がぐうと、なかなか立派な音を立てた。

