佐希子のこだわりメンチカツは他所のものと比べてずっとおおきいので、一度注文が入ると2個目を挑戦する人はなかなかいない。
それに今日は三月とはいえ、いつにも増して夜の冷え込みが厳しく、とろみのついた料理もよく出ているようだった。
火を消し、油の始末をしようとしたところで、佐希子は不意に窓の外を横切る人影に気づいた。
(だ、誰)
鼓動がはやり、本能で危険を察してフライパンから手を離す。
根岸くんか丹後さんを呼ぼうと、足を踏み出しかけたとき、玄関でチャイムが鳴った。
佐希子は思わず飛び上がったが、合図を寄越すなんて普通に良識的じゃないかと思い直し、息を整えてから玄関へと向かった。
「はい、どちらさまでしょうか……?」
「あ、こ、こんばんは。遅くにすいません。この前までお世話になってた国本詠子です。あの、佐希子さんですか?」
「なんだ詠子ちゃんなの? ごめんなさいね、今開けます」
戸を引くと、そこにはうら若き女子高生の私服姿に似つかわしくない渋い紙袋を手に提げた詠子ちゃんが立っていた。

