「おっしゃー、今日は女将のメンチカツか! 俺、これ好物なんだよねぇ」
「そんなにうまいのか。じゃあ俺もそれひとつ」
誰かが吠えれば、吊られて三十代くらいの連れも、あるいはまったくの他人も皆こぞってメンチカツを注文する。
元気のよいそれらの声を自宅の台所で聞きながら、佐希子は無意識のうちに表情をほころばせた。
顔が火照ってべたつくのも厭わずに、せっせとカツを揚げ続ける。
「こんばんはぁ」
「おっ、コーチに監督。いらっしゃい。どうぞこっちに座って」
あら、久しぶりの来店だわ。
合宿は終わったのに、日々繁多なのかなかなか顔を見せてくれなかった。あとで小言のひとつも言わなくっちゃ。
「根岸くん、お願いします」
揚げたてのメンチカツを、レモンを添えただけの皿に移して根岸くんに託す。
追加注文を急いでメモした後ももくもくと衣をつけ、色よく揚げることに専心する。
おかげでもう顔は真っ赤だ。
(そろそろ店のほうに顔を出してこようかしら)

