重荷になるから着いてくるな、と言われた別れの言葉が今でも耳に残っている。
あの日から今日まで吉川さんが枡屋を訪れたことはなかった。
先代の葬儀には顔を出したが、そちらは通夜からなにからすべてセレモニーで済ませてしまったので、実際に足を踏み入れたのは彼がうちを去ってからはじめてだ。
「わたし、別にもう自分ひとりが被害者だったとは思ってないんです。あの頃はまだ若かったし、捨てられたって一方的な思いで一杯だったけど、どうしても彼と一緒にいたかったら追いかければよかったんだもの。おばあちゃんは多分、そうなってもわたしを許してくれたと思う。そうじゃないですか?」
「だろうな。先代は懐の深い女だった」
「それに吉川さんも、もしかしたらそうなることを期待してくれてる部分がどこかにあったんじゃないかって、希望的観測だけど、わたしはそう思ってるんです。だから、裏切りってことで言えば、わたしだって少なからず同罪なんです」
「佐希」
「……でも、いざ本人を前にしたら、素直にはいわかったって、言えなくて……。だからあんな半端な提案をして、それでなくても困ってる吉川さんを余計に困らせて、無関係の尾久山さんって女の人にもすごく失礼だった」
吉川さんのことなんか、もうとっくに吹っ切ったはずだったのに。
恨んでなんかいないはずなのに。
それなのに、どうして、思ってることと別なことが口から出てしまうんだろう。

