おいしい時間 しあわせのカタチ


 吉川さんがまだ枡屋にいた頃、佐希子は彼と、皆に内緒で交際していた(もっとも、ゴンさんにはバレバレだったみたいだが)。

 佐希子のほうが一方的に好きになって、実力行使で彼女にしてもらったのだ。

 先代である祖母は、吉川さんが修行の延長でうちに来たとはいえ、あわよくばわたしの旦那さんになって、一緒に枡屋を守り立ててくれればいいと願っている節があったから、誰の手も借りずにそういう関係に発展したことはまさに願ったり叶ったりだった。

 佐希子自身、そうなってくれたら素直に飛びつこうと思っていたし、吉川さんも先代を敬い、枡屋を好いてくれていることはわかっていたから、いずれ時間の問題かなんて甘く見積もっているところもあった。

 それがまさか吉川さんが自分で店を持ちたいと、それも暖簾分けではなく、自分ひとりの店を持って一本立ちしたいと言い始めるなんて夢にも思わなかった。

 そしてそれはそのまま枡屋との決別を意味した。