吉川さんは、枡屋を、先代の夢を裏切りはしたけれど、だからこそ、先代に恥じないおおきなおおきな旗を揚げようとこれまでずっとひとりで頑張ってきた。
それは、わかっていたはずなのに……。
「おばあちゃんは吉川さんのことを気に入っていたんですよ」
「知ってるよ」
一段、吉川さんの声が低くなる。
ちがう、そういうことを言いたいんじゃないのよ。
「だから、吉川さんがいつかはうちを去ってしまうことも漠然とわかっていたと思います」
「……。佐希子、なにを」
「……吉川さんは今でも十分ご立派です。おばあちゃんはそれだけで満足していると思いますよ。天国から、応援はしても、恨んだりなんかきっとしていない。だから、無理をし過ぎているあなたを見ても、そんなに喜ばない気がするな」
吉川さんの喉が妙なタイミングで、不自然に大きく上下した。
「……おまえは?」
「うん?」
ぜんざいを啜るのに紛らせてとぼける。
吉川さんはそんな佐希子をしばし見つめた後、
「――いや、なんでもない」
そう言って、残りのぜんざいを一気に掻き込んだ。

