「……そうだな」
「大丈夫そうなら今呼んできます。ちょっと待ってて」
言い置いて、佐希子が店の裏口に足を踏み入れた瞬間、板場の三人が一斉に首を引っ込めるのが見えた。
必死に聞き耳を立てていたのだろう。……まったく。
「ゴンさん、ちょっと来て。――それ持ってね」
「お、おうー」
頼んであたためてもらっていた、甘い匂いの立ち上る片手鍋を受け取って、自宅のほうのコンロに載せる。
同時に、焼き網の上にふたつ、切り餅を並べて佐希子は火にかけた。
「うちにひとり、若い料理人さんを引き受けて欲しいんだそうです。ゴンさんはどう思います?」
「どうもなにも、俺は佐希の決定に従うまでだが」
「厨房はゴンさんの領分でしょう?」
ううむ、とゴンさんはアゴに触れた。
「俺は今のままでも構わないが、配膳にひとり増えてくれりゃあ今より効率がいいとは思うわな」
「なら」
「でもひとつ条件があります」
と、佐希子は菜箸を構えたまま、半身だけで振り返った。

