おいしい時間 しあわせのカタチ


 やはり決断したか。


「そのことで、おおかたの身の振り方は決まったんだが、どうしても移り先の決まらないやつがいてな」

「ホテルのお店ではたらいていたのは皆さん、本店からの方々?」

「ちがう。前の店からそのまま残ってもらったやつもいる。そのほうが法要、ブライダル関係のときに勝手が利きそうだったからな。そいつらはホテルに残れるよう話をつけてある。問題なのは、ホテルに店を出すときに新しく雇い入れたやつらだ」


 その一人を、枡屋で引き取ってほしいという申し出らしい。

 一昨年、高校の調理科を出て、吉川さんに拾われた、若干二十歳の女の子だそうだ。


「女の子、ですか。わたしが言うのもなんですけど、うちは男所帯だから」

「俺の店も厨房はほとんどそうだ。それでも尾久山(おくやま)は周りとうまいこと付き合ってたよ」

「それはそうでしょうけど、ちなみにその方は独身?」

「あたりまえだ」


 ひとりだけなら、それくらいの余裕がないわけではない。

 ただ、規模の面で、今でも厨房に三人はいれば肩がぶつかることは覚悟しないといけないし、人数がすくないからこそ割り振りがきっちりできて無駄がないとも言える。

 それでも現状がベストではないけれど……。


「無理そうか? 図々しい頼みだってことは重々承知してるんだが」

「無理でもないけど、ゴンさんに相談してみてからです。わたしひとりで決めるわけにはいかないことだもの。板場の声を聞かないといけませんわ」