それから数日後。
暖簾を出す前の仕込みの時間に佐希子は自宅の居間にいた。
テーブルの向かいには吉川さんがいて、疲労のにじむ顔でお茶を啜っている。
けれど、さすがはこの人と言うべきか、いくら疲れていてもそれを憔悴と呼ぶには意気が勝って、安易な同情を退ける。
眼光のような眼差しの前に佐希子はかける言葉もなく、淡々と話を聞くばかりだ。
もっとも、話を聞けば聞くほど、現状はなかなか厳しそうだが……。
銀行も相手にはしてくれないようだし、返済が滞っているところも少なくないようだ。
しかしそれでもこの人は、まだ、なにも屈してはいない。
野心も夢も、なにひとつ諦めてはいないのだ。
昔からそうだ。希望と言うには熱すぎる、火傷しそうな情熱がいつも吉川さんの真ん中には燃え滾っている。
決して消えることのない灯火が見えるこの人は、どんな逆境にあってもきっと立ち直る。
――だからここへ来たことは、佐希子にはわかっていた。
「俺の見込みが甘かったのは事実だ。でも俺は、ここを出て行くとき先代に誓った、必ず成功するという約束をきっと実現する。……そのために佐希子、おまえにどうしても力を貸して欲しい」
「中身によりますわ」
「――俺はホテルから撤退する」

