(……ていうか、今って合宿中じゃないの)
外出の許可をもらってまで夜道の心配をしてあげるほどの間柄なのか……ふたりは。
もっとも、なんの感情もなしに女の頭を撫でる男なんていないだろうし、足を引きずる男のためにチームメイトを退けてまで保健室まで付き添ってあげる女もいないことを思えば他に考えようもないのだが。
「――ッ!」
人前で泣きそうになったのも久しぶりで、思い出すだに胸が爛れるような心地がする。
だがそれよりなにより、せっかく手を差し伸べてくれていた八津くんに要らぬ意地を張ってしまったことが、詠子は悔しくてたまらなかった。
(あれじゃあ、もう、気持ちを伝えるどころじゃないよ)
きっと、それまで普通だった八津くんの、わたしに対する心証はがくんと急落してしまったことだろう。
わざわざこんな、ほぼ男子高みたいな学校に来たのは、神さまからの思し召し、運命だと思ったのに。
……いや、と詠子は首を振る。巡り会えたじゃないか、運命の人には。ただ、
(わたしが、チャンスをふいにしたんだ……)
ついにこぼれた涙を拭うために立ち止まる。
ぼろぼろと溢れては落ちる涙の粒がセーターの袖口を容赦なく濡らした。

