「じゃあお疲れさま。気をつけて帰ってね」
「はい。ああじゃなくて、あの――女将さん。ちょっといいですか」
「佐希子さんでいいわよ。女将なんて言われるとちょっと年代が上に聞こえるっていうか――なぁに?」
手招きされて食材置き場を兼ねている廊下に出ると、詠子ちゃんはなにやらもじもじと落ち着きなく言葉を探していた。
「あの、も、もしかしてなんですけど、おか――ああ、佐希子さん、野球部の怪我してる子なんか、夕飯を出すときに見かけませんでした?」
「怪我してる子? そうねぇ、八津くん? ていう子なら、脚を心配されてたかしら。そうじゃなくて?」
八津くん、と名前が出た瞬間、詠子ちゃんはわかりやすく顔を真っ赤にしたが、心配、という言葉が続くと急速に血の気をなくしていった。
さては……。
「……八津くんの具合どうでしたか? ものすごく痛そうでしたか? 保健室に氷持って帰るとき、……肩貸してもらいながら入ってくるところ見ちゃって」
肩貸して、の前の妙な間が気になったが、佐希子は言われたとおりに食堂での八津くんの様子を思い出そうとした。
「うーん、でもさっきの口ぶりからだとそんなに深刻そうではなかったかな。明日からも合宿には参加するって言ってたし。ああそう、保健室の先生も打撲だろうって。そんなに心配するほどではないと思いますよ」
「そうですか……、よかったぁ」

