厨房側の戸締りとガスの元栓、水まわりを確認してカウンターを出る。
曇りガラス越しに見える外はもうすっかり闇の中だ。急がなくては。
「お帰りですか?」
「はい。コーチはまだこちらに?」
「ええ」
「そうですか、お疲れ様です。――じゃあ、わたしはこれで、お先に失礼します」
駐車場への道を急いでいると、後ろから声がかけられた。
「佐希子さん、ちょっと待ってください」
「はい? あら、わたし、なにか落としました?」
「いえ、そうじゃなくて――」
コーチは持っていたファイルから、学校名の印刷された茶封筒を取り出した。
「これ、最終日の昼の弁当代だそうです。ほんとうは顧問である監督さんから渡されるのが筋なんでしょうけど、あいにく今日明日は学校関係の勉強会だとかで留守らしいので、代わりに預かりました。俺が何日も持ってても具合悪いんで、今受け取ってもらっていいですか」
「まぁそうですか。わかりました、すみませんわざわざ。これも後日、二週間分の手当てとまとめて支払われるものとばかり思ってたから助かります」
「対戦相手の学校がどちらも律儀で几帳面なものですから、三学期が終わるのと同時に振り込んであったようで。――じゃあ、そういうことですから。引き止めてすいません」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
用件だけを述べると、コーチは踵を返し、あっという間に寮の中へと消えてしまった。
夜の練習も見るつもりなのだろうか。明日も平日なのに、すごい人だ。

