「二人、一緒に帰るんだよね?じゃあ、私、こっちだから、児玉、お疲れ様。美雨ちゃん、学校のどこかですれ違った時はよろしくね」
急に思い立ったように、声を張り上げて、幡谷さんは、駅とは反対側に向かう通りを指差した。
美雨は「よろしくお願いします」と笑顔で返し、美雨と初めて対面した幡谷さんは、「じゃあ、またね。帰り道、気を付けて」と気まずさがあるのか、スタッフルームでは見せたことのない、しおらしい態度で、その場を足早に去って行った。
「幡谷さん……」
「幡谷さん……」
駅に向かう途中で、隣を歩く美雨がブツブツと呟いている。
「幡谷さんが何?」と訊ねると、「いや、何となく最近聞いた名前な気がするんだけど、思い出せなくて……と下唇に曲げた人差し指を添えながら、眉間に皺を寄せる。
「その内、思い出すと思う。きっと忘れてるのは、お腹が空いてるせいだ」
駅に着く頃には、そんな結論を出していた。
「あーあ、お腹空いたなぁ。今日のご飯は何だろうね?」
「友達と一緒に食って来なかったのか?」
「うん、図書館行く前にスイーツは食べたんだけどね。芽衣子んち今日、家族で外食するんだって。真央に会いたがってたよ」
美雨の友達はどうでもいい。「あ~、お腹空いた~」と美雨は再び叫ぶ。
「あんまり食い意地張ってると、また胃炎起こすぞ」

