彼女を振り返ると、急に慌てた顔をして、顔の辺りで両手を振った。
「いや、その、前に、この辺で美味いラーメン屋見つけたって話したら、児玉、行きたいって言ってたじゃん?たまたま、今日は、上がり時間が一緒だったし、児玉が暇なら___」
ラーメン?
そんな話したっけ?ぼんやりと記憶を辿る。
そう言えば、いつだったかしたかもしれない。
レジに入っている遅番のスタッフに「お疲れした」と声を掛ける。
♪ピロリロリン
入口の扉に手を掛けると、同時にチャイムのような音が鳴った。
「すみません、今日は____」
「真央!」
今日はちょっと、暇じゃない。
そう断ろうとした所で、前から弾んだ声がした。
横断歩道を挟んだ向う側から、テテテと小動物のような足取りで、こちらに向かって駆けてくる。
「美雨」
俺は彼女の名前を呟く。

