俺は一旦ホールに出て、ドリンクバーから、お冷を持って来る。
幡谷さんは、口は悪いけど怖い人じゃない。
むしろ、バイトを始めた当初は、解らないことだらけなくせに、人に訊けない不器用な俺に、色々、丁寧に指導してくれた。
姉御は面倒見がいいのだ。
光浦さんは、幡谷さんと同じ位にバイトに入ったらしく、仲がいい。
光浦さんが、いつもちょっかいを出して、幡谷さんが静かに怒っている感じではあるが、きっと光浦さんは幡谷さんに気があるのだろう。
幡谷さんは光浦さんをどう思ってるかは解らないけれど。
「光浦、あんまり児玉をパシるなよ」
水の入ったグラスを手渡すと、着替えを終えて脱衣所を出て来た幡谷さんが、溜息を吐く。
幡谷さんは、大学生の光浦さんに対して、「光浦」と呼び捨てだ。
「だって、真央、優しいからね」
ねーと首を傾げて、同意を求められたが、面倒臭かったから、取り敢えず無視した。
「坂高ってテスト期間中じゃないの?」
上がり時間になり、再びスタッフルームで幡谷さんと顔を合わせになった。
すでに着替えを終えた彼女が、椅子に座って一息つきながら、訊ねてくる。

