井岡が目を丸くする。


「……眠れなかったから」


「色々あってね。でも、いい気晴らしになったんじゃない?」


星夜が余計な一言を付け足す。無言で睨みを利かせると、そっぽを向いて口を尖らせた。


「そっかそっか、色々あったか。それにしてもご苦労」


井岡がバンバンと肩を叩き、ねぎらう。何があったか見当つかねぇくせに、適当に返しやがって。そして、普通に痛てぇし。


「つぅか、何か用?」


突然井岡が俺たちの間に割り込んで来た理由を訊ねる。あぁ、そうだったと彼は先程から手にしてたプリント用紙を、机の上にバンッと置いた。


「サカチュー?」


表題に書かれた文字を、首を傾げながら星夜が読む。


「そう、サカチュー。(坂下高校の中心で愛を叫ぶ)の略だ。坂高文化祭の名物らしくて、十年位の歴史があるんだってさ。知ってた?」


星夜と二人、顔を見合わせて首を振った。


「一応、進学校に分類される坂高がさ、文化祭くらいは少々羽目を外してもいいんじゃない?って提案したことから始まったらしいんだけどさ。その名の通り、体育館の舞台の上で愛を叫ぶんだよ」