フテキな片想い



兄と二人暮らしの星夜は慌てて、机の上を片付け始めた。


「俺も帰らなきゃ、今日、バイトないって言ってあるし、星夜の家行くって言ってなかったし」


「原画のトレース作業だけでも、空いてる時間にやっといて。シート、何枚か渡しとくから」


「了解」


テーブルの上を片付けるのを手伝うと、真新しいプラスティックシートと、井岡の描いた原画数枚にトレースペーパーを受け取り、カバンに突っ込んだ。


「じゃあな」


「また、明日」


玄関先で見送ってくれる星夜に軽く手を降り、アパートの階段を降りた。


星夜が扉を閉めるのを確認して、ポケットの中から携帯を取り出す。


特に着信はなかった。少しホッとして、時間を確認し、もうそろそろ美雨のバイト上がりの時間だなと思い出した。


美雨のバイト先であるカフェは、星夜の住むアパートからすぐのバス通り沿いにある。


そういえば、美雨のバイト先って行ったことないな。


いかにも女しか興味のなさそうな外観からか、それともバイトを始めた頃の美雨が、「失敗してばかりで恥ずかしいから、働いてるとこみんなに見られたくない」と何気なく呟いてたからは忘れたけれど、店の近くは通るのに(星夜の家に遊びに行くから)、美雨に逢いに行った事はなかった。