「これからまず、伊豆の社長の別荘に向かう」
「はっ?別荘…ですか」

会議じゃないのか。

「うん。社長の奥様が、病気療養中なんだ。…そこでお前の仕事だ。まず着いたら、見舞いの果物カゴと花束、婦人の好きなカサブランカを基調にして、調達して来い」

「は、はいっ」
 
箸を置き、慌ててメモ用紙を取り出す。“カサブランカ” と。

「これくらい書かずに覚えろ。
…で、ここからがお前の一番重要な仕事だ」

ピシッと背筋を伸ばす。

「いいか?これは俺の今後に関わる重要なミッションだ、お前に全てがかかっていると言ってもいい…」

「ええっ!そんな…」

彼は、真剣な眼差しで私を見つめた。

気を引き締めなくては!
何故か鼓動が高鳴った。

私はいま…
これまでになく頼りにされている!

「いいか?まず俺が、社長の代理で見舞いに参りました、という」
「はい!」

メモ帳に書きこむ。

「婦人はお前を見ると、花を活ける事、果物を切ること、などを命じるだろう」

「はい!それならば大丈夫です!
こう見えても私、一人暮らしが長く…」

「で、ここからが正念場だ」

…無視かよ。