我々は更に杯を重ねる。

 会社とは打って変わって賑やかな彼に、すっかり打ち解けた私は、既にリミッターをふりきっていた。

「あ~あ、大神さん、いっつもこうだったら良いのに」

 私は卓に頬をピタリとつけて、

「俺は公私混同はしないの!厳しく鍛えてやってんの!お前のセイチョウの為って奴よ」

「だって、恐いんだもん。
 大神さんは、オオカミさん。なんちゃって」

「…………」

 オヤジと化した私は、既に性質の悪い酔っぱらい。
 係長のシラケきった呆れた顔にも、ニッと笑って掌を振る。

 と、彼が急に話題を転じた。

「ああ、そう言えば知ってる?『赤ずきんちゃん』」

「? あったり前じゃないれすか」

「あれって元々は、オオカミさんに、おばあちゃんも赤ずきんちゃんも喰われてお仕舞いって話なんだぜ」

「違いますよぉ、オオカミはお腹をちょんぎられ、重たい石を詰められて…」

「イヤイヤ、それが違うんだなあ」

 彼は得意気に目の前に人差し指を立てて振った。

「あれはな。
 悪いオオカミさんには着いて行ったら駄目ですよっていう、教訓話なんだな、うん」

「そうそう、そう言えば!」

 ケタケタと笑いながら、私は言った。

「赤ずきんちゃんってさ、変装見破れなさすぎ。
 だって、
 おばーちゃんに化けたオオカミですよ?普通分かるでしょう?

 『どうしてお目目が大きいの?』なんて」

「『お前の顔を、よく見たいから』ってか?」

 互いに顔を見合わせて笑う。

「『どうしてお手てが大きいの』」

「『お前を抱き締められるから』?」

 また笑う。
 あれ、そんなのだったっけ?

「『どうしてお口が大きいの』」

「『それはお前を』…食べるため」

 …え?