一刻が経ち、頭から手ぬぐいをかぶった男が再び比草屋を訪れる。


「あっしが案内します。あっしの後についてきてくだせえ」


男はそう言って、提灯を手に歩きはじめる。

比草屋も提灯を片手に、男の後ろについて行きながら、胸のうちで己を誉めたたえていた。

(われながら、上手いことを考えついたものだ)

あくせく働くよりも、年頃の娘を人知れず拐って女郎屋に売った方が、はるかに金になる。

貧乏な浪人たちに金を与えて仕事をさせれば、自分は手を汚さずにすむ。

ニヤニヤと笑みを浮かべる比草屋は、自分の背後の闇に隠れる存在に気づかない。


けっこう歩いたところで辻を曲がったとき、誰かが提灯も持たずにたたずんでいた。

前を歩く男の足が止まる。

真っ暗な闇のなかに立つ誰かは、武士のようだ。

目的地に着いたようだが、この武士が女郎屋の主人とは思えない。