虎之助から放たれた殺気は、男に「死にたくないっ!」という意思を瞬時に蘇らせた。

男の身体が、金縛りの呪縛から解放される。

虎之助から逃げるべく後ろを振り返った、そのとき


「!?」


鬼神十兵衛が刀を上段に振りあげ、不気味な笑みを浮かべながら待ちかまえていた。

絶好の間合である。

ドガッ!

声を出す間もなかった。

まるで、割り箸をパキンと割るかのような鮮やか一撃が、最後に残った悪党にトドメをさした。

飛び散る鮮血が、戦いの終わりを真っ赤な色で飾る。

目をみはるような十兵衛の一撃に、虎之助をはじめ藤吉、喜八郎、そして伊助も皆が思った。

(自分たちの主人にふさわしいのは、やはりこのお方なのでは…)

十兵衛からは、なにか鬱陶しがられて適当な扱いを受けているのではないか、と思っていた虎之助たちである。

だが、ともに仕事をするとなれば、これほど頼りになる人物はいないに違いない。