虎之助がピタッと歩みを止める。

男はビクッとして足を引きつらせ、そして金縛りにかかったように全身が硬直する。

虎之助が刀を中段にかまえる。

対峙する男は、頭のなかが真っ白だ。

虎之助を見ているようで見えていない。

相手との距離は離れているはずなのだが、虎之助が刀をひと振りすれば、真っ二つにされそうな気がする。

へたに動けず、なにもできない。

限界に挑むような己の心臓の鼓動を、ただ聞くばかりである。

その音に割って入るように、虎之助の落ち着いた声が響いた。


「どうした。かかってこないのか?」


恐怖に支配された身体は、その場から動くことを拒否している。


「ならば…」


虎之助の目が冷たく光り、二人の間の空気が歪む。


「こちらから行くぞ」


ドンッと音が聞こえそうなほどの強烈な殺気が、悪党に襲いかかる。