十兵衛は、ふと思い出したように利巌に尋ねた。


「屋敷に来るまえに耳にしましたが、あちこちで神隠しが起きているとか」


利巌と連也が顔を見合わせる。

確かに、そういう噂が城下にちらほらと流れている。

町人の娘が行方知れずになっているらしい。

聞くところによると、神隠しは十兵衛がここへ来る三日ほどまえから起きているようだ。

いま、三人もの女子が、人知れず姿を消している。

利巌から話を聞いた十兵衛は、ぐいっと酒を飲みほした。


「ま、飲みましょう」


にこにこしながら、利巌と連也に酒をまわす。

そして、自分の猪口にも酒を注ぎながら、胸のうちで考える。

(虎たちを使ってみるか…)

虎之助たちを尾張へ送りだしたものの、彼らがそんなに忙しい日々を過ごしているとは思えない。

たまには、皆に働いてもらうのも良いだろう。

十兵衛の顔に、フッと笑みがこぼれた。