虎之助と話している十兵衛の後ろに、人影が忍びよる。


「来たのか、十兵衛」


利巌であった。


「あ、利巌殿」


十兵衛は、持っていた酒を笑顔でかかげる。


「酒を持ってきてござる。今日は飲みましょうぞ!」


十兵衛はそう言うと、利巌がなにも言わないうちに、ひとりで屋敷の入り口に向かって行った。

利巌が、ボソッとつぶやく。


「相変わらずじゃのう」


汚い格好のまま座敷に上がろうとして女中に怒られた十兵衛は、とりあえず身体を洗い流し、旅の汚れを落とす。

日も暮れて、利巌と連也そして十兵衛が、おなじ部屋で酒をかわす。

十兵衛が連也を見て、感心するように言った。


「大きくなったな、連也」

「はい」

「良い顔をしとる。利巌殿から正統を継ぐ日も、近いだろう」

「いえ、拙者など、まだまだ」


十兵衛は肌で感じる。

(バカほど強くなったのう…)