ふと気がつけば、背中にのしかかる殺気が消えている。

平助は、ゆっくりと後ろを振りむく。

背中の向こうは、当たり前だというように人影はなかった。

(……)

平助は、自分の主人の屋敷に向かって歩き出し、やがて全力で駆けて行く。

(柳生は本気だ)

とにかく、必死で柳生屋敷から離れる平助であった。


(行ったか…)

平助に脅しをかけた虎之助は、塀の内で気配を消し、そのままじっとしていた。

そこへ伊助が寄ってくる。


「また来ますかね?」

「いや、もう来ないだろう」


平助には、最初からやる気がない。

虎之助も、それは感じとっていた。

(あやつが再び来るとは思わないが、黒幕が誰だか判らないことには、な)

実は、この時点では、平助の主人が誰なのか、まだ判っていなかった。

(たのむぞ、新山)

主人のもとに走る平助を、新山が追っている。