利巌は、佐々本に尋ねた。


「佐々本家の家宝とは、何でござるか?」

「それが…」


佐々本の顔に、困惑した想いが表れる。

彼の話を聞くに、佐々本家には家宝といえるほどの宝はないという。

父から授かった刀ぐらいしか心当たりがないのだが、その刀にしても「折り紙つき」というほどではなく、狙われる値打ちがあるとは思えない。

それゆえ、どうしてこんな書状が自分のところに送られてきたのか、佐々本にはさっぱり分からない。

書状によると家宝が狙われる日は、三日後である。


この不気味な一件が、佐々本を一週間ばかり睡眠不足に陥らせている。

このままでは、仕事にも支障が出かねない。


「柳生殿、どういうことだと思われますか」


佐々本の話を聞いた利巌は、だいたいの見当がついた。

これは、佐々本の出世に対して、逆恨みの念を抱く者の仕業にちがいない。