十兵衛は、ひとつ咳払いしてから本題に入った。


「おぬしら、尾張へいかぬか?」


みんなは、主人となった十兵衛の予期せぬ言葉に、呆然となる。

喜八郎が目を丸くしながら尋ねた。


「尾張、ですか?」

「うむ。江戸にいても、やる事がなかろう」


つまり、江戸にいても暇だろうから尾張へ行けと、こういうことなのだ。

これが、虎之助たちが尾張へ来た理由である。


「尾張には、利巌殿がおられる。あのお方の世話になれ、な」

「……」

「あー、それからな」


十兵衛の目が、一瞬、真剣味をおびる。


「あのお方に出会ったなら、斬ってもよいぞ」


突然、なにを言いだすのかと思えば、とんでもないことを言う主人である。

その主人は、ニヤリと笑いながら言った。


「ただし、おぬしらが斬ることができれば、の話だがな」